ごはんの種をまく日々
未来工房通信
オリエント手織り敷物
紀元前3500年頃興った古代オリエント文明。地続きの大陸や海向こうの地と続く争いはこの地も例外ではなく、数千年の間、様々な王朝や都市が勃興・衰退しました。しかし、そんな歴史に翻弄されつつも、敷物は織り続けられました。それは、イランやトルコの人々にとって敷物が生活に欠かせないものだったから。家族が長生きするよう祈りを、羊を追ういつもの生活を、花々が美しく咲き乱れる庭園への憧れを、森羅万象への感謝を…当時の織り手たちの願いは、現在作られる敷物に織り込まれる願い、モチーフでもあります。時間と距離が遠く離れていても、私たちが今、日常の暮らしにおける願いと違いはありません。そんな手織りの敷物を取り入れてみませんか?
ウールの絨毯はオールシーズン。
ウールの絨毯は、冬のアイテムと思っていませんか?
実は、ウールには調湿効果があり、敷くだけでお部屋の湿気をコントロール。
夏こそ心地よい素材です。
糸の質と太さ
用いる糸の質や太さによって品質に差が生じる。質の良い細い糸を用いたものは、図柄も繊細に表現でき、しなやかさと強度をかねそなえる。熟練した職人が長い期間をかけ織り上げるため希少で価値が高い。
タブリーズ:シルク製の細かく緻密に編み込まれた絨毯。裏を見るとさらに繊細な手仕事がみて取れる。(右写真)
織り
パイル結びと平織り(つづれ織り)
パイル結び
ペルシャ絨毯・ギャベ
縦糸にパイル糸(色糸)を結んでは切りを繰り返し、一段ごとに横糸を通し、鉄の櫛でよく打ち込み、パイル糸を締めつける。
平織り(つづれ織り)
キリム
縦糸と横糸を交互に通して上下に交差させしっかりと詰めていく。母から娘へと継承されていく中で様々な織り方が生まれ、繊細で複雑な模様も表現。
デザイン
幾何学文様と花柄文様
明確に二つに分類することができ直線で描く幾何学文様と、曲線を主とした花柄文様に分かれる。トルコとイランで二分されるのではなく、地域の中に二つの文様があらわれている。
幾何学文様
花柄文様
幾何学文様のイメージのキリムだが、バラをモチーフにしたエレガントなデザインも。
床の上の芸術品
ペルシャ絨毯の歴史は古く、紀元前3000年とも4000年とも言われています。2500年前に製作と推定される「パジリク絨毯」が現存する最古のもの(※諸説あり)としてロシアの美術館に所蔵されています。
その後、偶像崇拝を禁止するイスラム教の王朝を背景に、装飾文様が発達、宮廷の保護のもと工房で熟練した職人がペルシャ絨毯を織るようになります。そのデザインはきわめて複雑。その図柄は、それぞれの土地への思いや花や庭園への憧れを詩情豊かに表現しています。
風呂敷といえば唐草文様
江戸から近代まで、どこの家にもあった長寿をあらわす吉祥文様の風呂敷。この文様の発祥は、エジプトともメソポタミアとも言われ、ペルシャでイスラム教発祥以前に広く信仰されていたゾロアスター教の自然崇拝的な要素と、イスラムの偶像否定によりさらに発展し、モスクやそこに置かれた家具・絨毯の装飾に使われています。イギリスではウィリアム・モリスもデザインに取り入れました。
シルクロードを経て日本へ
シルクロードを渡り、ペルシャ文化は東西へ波及しました。
8世紀、正倉院に収められた宝物には、ペルシャ文化の影響が色濃く見られます。和の文様として馴染みのある唐草文様は、その名の通り中国(唐)から日本へ伝わった花や蔓草が絡み曲線を描く吉祥文様。ペルシャ絨毯で描かれる文様の一つでもあります。
また、イランやトルコは部屋の中で靴を脱ぐ、日本と同じ生活スタイル。和の設えに調和する優美にめぐる唐草文様の絨毯は、そんな文化の共通点もあり、日本の暮らしにすんなり溶け込みました。
▶︎京都 祇園祭山鉾「南観音山」
17~18世紀に伝わったとされるペルシャ絨毯が、山鉾の懸装品として飾られている。(絨毯の保存のため、現在は複製品を使用)
キルマン:周囲を砂漠に囲まれオアシスへの憧れから、花が満ちた楽園のようなデザインが多い
イスファハン:産地が紡いできた文化が、それぞれの地の柄や色に現れる。イスファハンは、この深いブルーとレッド。
ペルシャ絨毯の長年の汚れは
専門のクリーニングを!
クリーニングは販売店へ相談を。素材を知り尽くした専門のクリーニングは安心でき、仕上がりも違います。
遊牧民の自由な感性
ペルシャ絨毯のひとつであるギャベ。イラン南部で暮らす遊牧民の女性が織り上げる、天然ウール100%の手織り絨毯。刈り取った羊毛を、手で紡ぎ草木で染め、花嫁が嫁入り道具として織り上げてきました。
文様は家庭の味を受け継ぐように母から子へ伝承され、今も家族の幸せや自然への感謝などの想いを文様に込めながら、織り子の心に想うまま織り描かれています。
生命の木:家族が元気で長生きできますように
お手入れについて
主な素材であるウールは、油分を含み、水分を弾きます。また、染料に使われている草木染めには防虫効果があります。
表面と、四方の裏側にも掃除機を。
お菓子のクズなどゴミが入り込んでいませんか?実は、このゴミに虫が集まって、絨毯につくことがあります。掃除の際には、裏面もお忘れなく。
コーヒーなど液体がこぼれたら
こぼしたらすぐにタオルなどで優しく吸いとります。こすると汚れが広がり押し込んでしまうため、水を固く絞ったタオルでたたくように拭き取ります。
タカムラ家具の店内で17年前から使用しているギャべ。毛足の隙間にゴミなどが入らないほど密に織り込まれているため、日頃の手入れは掃除機をかけるだけ。
遊牧民の生活実用品
遊牧民にとって、折りたたんで持ち運べるキリムは、敷物、食卓、布団や衣類の収納、穀物や塩などの食品袋など、暮らしの中で様々な用途に使われてきた生活用具であり、女の子が生まれると、嫁入り道具として必要なキリムを手織りし準備します。
複雑な文様や、装飾と補強を兼ね刺繍をあしらったものなど、生活道具でありながら、暮らしに潤いと彩りを添える伝統工芸品。古いものも修繕しながら大切に使われています。
女性が織り、修繕するのは男性。補修する糸は、織られた年代のものに合わせて作られる。
薄手に織られた穀物用のキリムをクッションに。刺繍を施すことで、ヤギなどの背中でゆられても破れにくくなる。
アンティークキリムを解いた糸で織られたリメイク。
100年のアンティークキリム
織られて50年以上経過したものをオールド、100年以上は「アンティークキリム」と呼ばれ、家庭用に織られ暮らしの中で使われてきたキリム。
デザインや織りなど、現在生産されているものにはない様々な技術が織り込まれ、草木で染められた糸は時間だけが作り出すことができる柔らかな色彩に。
遊牧民の生活では、キリムの上で煮炊きも。汚れや焼けたところを避け、使えるところはパッチワークやクッションにリメイクするなど大切に活用。
(キリム展やかまし村のギャラリーにて)
自分でお手入れ、外でも活躍!
折りたたんで持ち運べ、お手入れも気軽なキリム。運動会の敷物にと、屋外のレジャーシートに使う人も!
基本は水で手洗い。浴槽にキリムが浸かる程度の水を入れ、踏み洗い。脱水は短時間で行い、風通しの良いところで陰干しし良く乾かす。
※お湯洗い、洗濯機の使用は厳禁です。