食卓の上にある暮らし
未来工房通信
左官になった青年
左官の仕事
10代から左官の仕事に就き、20歳の時に左官職人に弟子入り。8年ほどの修行を経て、28歳で「深町左建」を創業した深町徹さん。現在は2人の弟子を持ち、地元福岡を中心に全国各地の左官工事を手がけています。
深町さんのもう一つの顔は、なんと、飲食店SUMIBIYAKI SYAKANの店主。その店名の通り、このお店は左官仕事のショール―ム!黒光りする竈ももちろん深町さんの仕事です。何より圧巻なのは、全て深町さんと弟子の手で作り、仕上げられた、カウンターや壁。カウンターは曲線が美しい「研ぎ出し」、ある壁は「大津仕上げ」、またある壁は「荒壁仕上げ」、パーテーションは左官工事の下地になる「竹小舞」と、様々な手法・材料の左官仕事が見られます。
未来工房の現場で土を塗る深町さん
弟子をとる
10代で仕事を始めた頃は、ひたすらコンクリートを施工したり、ブロックを積んだり・・何も分からず本当に面白くなかったと笑います。弟子入りしてからも3年ほどは鏝を持たせてもらえず、親方の技を見て盗んで自分でやってみる、昔ながらの学び方だったとのこと。もちろん自分はそれで良かったけれど、自ら学んでもらうためにも面白がってほしい、そんな考えのもと弟子育成に臨んでいるそうです。
だから、「自分の弟子には楽しいと思えることをさせたい」と話す深町さん。弟子入りして数ヶ月、10代の弟子にも、さっそく枠を作って土を塗る練習をさせているとのこと。「だって鏝持ちたいでしょ?それに、若いからかすごく吸収が早くて、自分もこんな若い頃からもっと真面目にやってればよかったなって、ちょっと悔しい」。そんな言葉からは、左官仕事を継承していこうという気概と、自分がもっと成長したいという欲求も窺えます。
共に作業する
左官・大工、独立してからも職人たちは常に一人だけで仕事をするわけではなく、たくさんの仲間がいます。自分が請けた仕事にも応援を呼んだり、逆に応援に呼ばれたり。その現場で年齢や境を超えて学び、仕事が広がっていくのが職人の世界です。とはいえ、仲が良ければ仕事が増えるわけではなく、もちろん「腕」勝負。1ミリを雑に仕上げれば次の仕事はない、だからこそどんな仕事も初心で、そして自分の仕事を見せつけてやる!と思って取り組んでいると話します。
突き詰めたい
自分がつくるものだから、なんとなくで終わらせたくないと話す深町さん。売っている材料は分解してみる。新たな材料を勉強会で学び、自分で考えて作ってみる。焼きが違う鏝で押さえてみる。樹脂系の材料の特徴、西洋漆喰の作り方、昔ながらの土壁、漆喰を作るときの藁スサの細かさや配合する分量、消石灰の産地、混ぜる糊の量・・ここですべてをご紹介できないのが残念です。
100年以上前に、地元の材料でつくられた蔵。当初の写真を見ると見るからにボロボロで崩れ落ちそうな様子・・・それが伝統的建築物の宿泊施設として生まれ変わるまでの左官仕事を追いました。
1.竹小舞を編む(えつり)
初めて現場を訪れた3月始め、左官職人たちは、土壁の下地となる竹を編む作業をしていました。古く奈良や京都では木小舞、明治以降は木摺りも普及しましたが、やはり八女は竹の産地。これは立花の竹だそうです。この日は、えつり専門の職人さんが柳川から応援に来られていました。竹を編んで終わりではありません。竹と竹が交差するところに、下げ縄を垂らし、このあと土を塗る際に、この縄をハの字に塗りこんでいきます。漆喰で仕上げる部分は、窓枠から軒先にいたるまで細竹に藁を巻いた竹小舞がびっしりと。木に直接塗りつける部分は、土が食いつきやすいように切り込みが入れられています。
2.土づくり(発酵)
最初に塗る土は粘土質のものが適しています。今回は、南関・甘木の土に久留米の藁を混ぜ、発酵を早く進めるために、深町さんの作業場で1年半ほど練り置きしていた土と混ぜているそう。発酵が進むほど藁が少し溶け、土は黒くなります。微生物がたくさんで栄養たっぷりの土が黒々としているのと同じですね。
3.荒壁
土を乾かしながら進めるので、荒壁は時間が必要な工程です。発酵させた土にさらに藁を混ぜ、竹小舞の内・外両面から、この発酵した土を押し込んでいきます。乾いた土に次の土が食いつきやすいように、土にも×がつけられています。
4.土から漆喰へ
何度も塗り重ねるからこそ強くなる土壁。乾いては塗る工程の中で、土や砂、藁の配合を少しずつ変えていきます。一度乾いた後同じものを上から塗ると剥離してしまいます。仕上げが近づくにつれ、粘りを少なくしていくのが基本です。
この建物の外壁は、荒壁・砂ずり・砂と藁を足した粘土・大直し・中塗り・仕上げの漆喰と、塗りの工程だけでもなんと6工程も!ただし、上部は重量を増やしすぎないよう、いくつかの工程を減らしているとのこと。細やかな心配りがあります。
5. 漆喰づくり
深町さんのこだわりはもちろん、気候や現場に合わせた配合の漆喰づくり。糊を炊いて、消石灰とスサを混ぜて作ります。いろいろな考え方や工程がありますが、精製されて粒が揃い過ぎている消石灰よりも粒が不揃いなものがいいと、深町さんは言います。「粒が揃い過ぎると割れやすくなる」とのこと。漆喰も人間社会と同様に、やはり多様性ということでしょうか。
6.漆喰を塗る
大小様々な鏝を使い分けながら、建物正面の顔となる部分を塗ります。すでに6月にさしかかっていました。私たちには想像もできないほど、これまで何度も施工を繰り返してきたのでしょう、鏝一つで、壁を平らに塗っていきます。肌をそろえることをいちばん気にしていると話す深町さん。これは正面から見ても分からないとのこと。だから、横から見て(室内なら片手にライトを持って)、仕上げていくのです。
さいごに
どこにでもある当たり前の材料は、職人の手によってこんなに美しい壁に生まれ変わることができます。欲しいものを欲しいときに海外からも買うことができる、そんな現代の当たり前がコロナ禍で崩れた今、むしろ、もっとも汎用性のあるものと言えるのかもしれません。 完成した蔵は、Craft lnn 手、和紙の部屋として2021年10月8日にオープンしました。家具や調度品、そして建物も、その手仕事をぜひ味わってください。
古い土壁の中から出てきた竹と縄は100年以上前のもの。
和紙の部屋 旧丸林本家蔵
和紙の部屋 旧丸林本家蔵10月8日オープンのCraft Inn 手 [té] は、現代の暮らしに合わせて再編集した九州の「手仕事」を体感し、また「手仕事」を体験する宿です。八女福島地区の伝統的建築物2棟を改修し。3室を客室として用意しております。
藍・竹・和紙をテーマにした三つのお部屋には八女を中心とした九州のつくりてがその土地の素材と技法を活かしてつくった家具や調度品を設えています。
SUMIBIYAKI SYAKAN
福岡県久留米市北野町今山365
営業時間:18:00〜23:00
定休日:水曜日 TEL.0942-55-1684
※17時以降にお問い合わせください。